Tiger カスタムボトル
カスタムボトルでカスタムされたのは我々の方だった!

Lifestyle
2023.02.09

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魔法の瓶、魔法瓶

飲み物の温度を電気もガスも、火も氷も使わずに何時間もキープできる不思議な瓶、魔法瓶。子供の頃からこの「不思議さ」に何の疑問も抱かずに、なんとなく遠足の時とか、部活の時に使っていたけど、冷静に考えたら魔法瓶ってめちゃめちゃサステナブルなのでは?

冷蔵庫から出しっぱなしにしたペットボトルは温度が外気温と近い温度まで緩くなり、再び冷蔵庫で冷やそうとするたびに電力を消費するし、ちょっとあったかいお茶を飲もうとするたびに電気やガスを消費してお湯を沸かさなくてはならない。さらに、お茶を飲もうとお湯を沸かしてカップに注いで、ちょっとゲームに夢中になってる間にすっかり冷めてしまって残念な気持ちになってしまうこともしばしば。これが魔法瓶にした途端、6時間くらいほっといても全然冷たいし、全然あったかい。まさに魔法だ! すごいぞ魔法瓶!!

ということで、BlueBoat 編集部内での魔法瓶の最新機種、タイガーのカスタムボトルについてタイガーさんへのインタビューも交えて色々調べてみた。

魔法瓶の歴史とタイガー

魔法瓶の基本的な仕組みは今から150年近く前の 1873年にイギリスの科学者、ジェームス・デュワーによって発明された。

『デュワー』…。何か聞き覚えがある単語だと思ったら、日本を代表するコミック『AKIRA』で、アキラが超低温で冷凍保存されていた設備の装置の一つに『デュワー壁』という名称がつけられていた(Akira 第1巻 214ページ)。ちなみにこの『AKIRA』が制作されていた1980年代中頃というのは、これまでのガラス製の魔法瓶から、落としても割れないステンレス製の魔法瓶へと急速に切り替わり始めた頃と一致しており、30年先の2019年が舞台のSF作品でも魔法瓶のテクノロジーが採用されるほどステンレス魔法瓶ってセンセーショナルなものだったのだなぁと想像するとなかなか感慨深いものがある。

話を戻そう。1873年の発明から31年後の1904年、ドイツのラインホルト・ブルガーが保温保冷器具として製品化に成功。そこからさらに19年後の1923年に日本でタイガー初の魔法瓶が販売された。イギリスで発明され、ドイツで初めて製品化された魔法瓶だが、実用度を一気に高めたのは1978年の日本だった。これまでガラス製だった内部構造をステンレスにすることで落としても壊れにくい魔法瓶が発明されたのだ。1980年代になるとステンレス魔法瓶は瞬く間に世界に広がっていき、特に水筒の分野においてガラス製魔法瓶に取って代わる存在となった。その後タイガーは魔法瓶の技術を応用し、自動車用蓄熱システム、国際宇宙ステーションISSから物資を運ぶ⼩型回収カプセルの真空二重断熱容器の開発など、市民の生活から宇宙開発に至るまで多方面に展開されながら今日に至る。

テクノロジーより大切なこと

魔法瓶はステンレス化されたり、内部コーティングや蓋の形状などによってマイナーチェンジが繰り返されているものの、150年前の技術をベースにしたままなので流石にどの会社の製品も似たり寄ったりの性能になってきた。

タイガーの社内会議で「技術ではなく、別のステージに立たないと」という議論があったという。彼らの魔法瓶に関する技術力は業界トップクラスだ。他に勝てないから別の方法で…、という言い訳ではないことはタイガーの技術の適用範囲を見れば一目瞭然だ。では彼らが目指す『別のステージ』とは一体何なのか?
『別のステージ』を表現するためにタイガーが用意したのが、2020年に発売されたカスタムボトルという製品だ。カスタムボトルは細部にタイガーらしい工夫が凝らされてはいるものの、特別新しいテクノロジーを採用しているわけではないし、タイガーの集大成といったような製品でもない。しかしこれまでのタイガー製品では見られなかった『NO・紛争鉱物』『NO・丸投げ』『NO・プラスチックごみ』『NO・フッ素コート』の4項目で構成された『4つの約束』と銘打たれた明確なサステナビリティに関連したコンセプトがそこにはあった。

紛争鉱物を使わないステンレスボトル

BlueBoat 編集部内で特に話題になったのは『4つの約束』のうちの『NO・紛争鉱物』だ。コンゴには金やダイヤモンドを含む豊富な天然資源があり、これらの天然資源は紛争の火種となり、戦争を継続するための武器の資金源にもなっているという。

1998年から5年間続いた第二次コンゴ戦争では死者数500万〜600万という調査報告などから第二次大戦後最大の紛争と言われている。この紛争は2003年に形式上終戦したが、戦闘は今でも続いており、国力は衰退し、少年兵、性暴力、飢餓といったさまざまな問題を抱えている。2022年2月に始まったロシアとウクライナによる戦争では、9月の段階で戦争による死者数が10万人を超えたとも言われているが、日本ではほとんど報道されないコンゴの紛争による死者数はその50倍を超えており紛争の凄惨さを物語っている。

紛争鉱物を使うということは、間接的に紛争の継続に加担していると言える。紛争鉱物は、レオナルド・ディカプリオ主演の映画『ブラッドダイヤモンド』でも取り上げられたように貴金属・宝石類として高値で取引されたり、スマートホンや照明、暖房など私たちの生活に欠かすことのできない様々な製品に紛れ込んでおり、いかにこれらを排除するかが長年の課題になっている。

紛争鉱物を使わないための原材料の徹底管理は、『NO・丸投げ』で挙げられている自社工場での生産の成果でもあるだろう。さらに自社工場での生産によって多色展開であっても完全に生産をコントロールすることが可能になり、過剰生産を防ぎ、高い品質を保つことができるようになった。

『別のステージ』のもう一つの意味

カスタムボトルのリリース時に大々的に掲げられた『4つの約束』は各方面で話題となった。しかしそのコンセプトもタイガーにとってはずっと昔から取り組んできたことを公開しただけに過ぎない。

「ちょっとした日本人的な発想で、それを今まではあえて発信をしない、そんなことを言う必要はない、という感覚でした。しかし、今まで以上にグローバルに展開していくために、国内外問わずお客さまに選んでいただくためにも『4つの約束』という形で自分たちの行動を明確に掲げることにしました。」

もちろん『4つの約束』を公開することで自社の取り組みのレベルを上げて『別のステージに立った』という言い方もできるだろう。ただ筆者が思うに、タイガーが行ったことは、自社の取り組みを公開することで起こりうる『消費者の意識改革』だったのではないか。

「タイガーボトルサイトは、弊社として初めてのD2Cサイトでした。メインターゲットをZ世代に設定したため、SNSでの広告展開やキャンペーンをローンチ時からやっていきました。その中で、シンプルに商品に対して色がかわいいだったりとか、サステナビリティの方針に関して、こういうのをメーカーが発信するのは素晴らしいだったりとか、是非使ってみたいだとか他社さんから乗り換えたいとか、そういう有難いお声はすごくSNS上で見られるようになった、っていうのはありますね。」

また『NO・プラスチックごみ』では、マイボトルを使うことでペットボトルなどのプラスチックごみ削減に寄与することを掲げているが、それ以外にもパッケージにはほとんどプラスチック素材が使われていないなど、脱プラへの取り組みが感じられる。

「最初はパッケージに『4つの約束』は印刷されてなかったんですが、『4つの約束』を入れるようになってからパッケージごとSNSで紹介していただくことが増えました。」

日本は環境問題に対する国民の意識が低い国と言われているが、消費者の行動から徐々に関心が高まりつつあることがわかる。

Z世代という、現時点で物事に対する思考の柔軟さを持った若い世代をターゲットにし、ネットをこれまで以上に活用することで上記のような意識の変化が見られた。ステンレスボトルを通して消費者のものの見方、商品の選び方にまで変化を与えられたとしたら、ステンレスボトルとして『別のステージに立った』と言えるのではないか。それはきっと今までどの同業他社も成し得なかった、あるいは考えもしなかった偉業なのかもしれない。

『未来を水筒につめて』

『4つの約束』以外にもタイガーではステンレスボトルの売り上げの一部をウォーターエイドに寄付している。

「ローンチ前の段階ではかなり広く寄付先を探していたんです。最終的に人権・健康・環境配慮というタイガーボトルとして掲げている指針を包括しているウォーターエイドさんが相応しいということになりました。『すべての人に清潔な水と衛生を』という活動をされており、タイガーの掲げるテーマとよくリンクしていたのが寄付先として決め手となりました。そうやって綺麗になった水をカスタムボトルに入れて世界中の方々に使っていただきたいという思いもあります。」

シンプルなデザインに施された美しいカラーバリエーションと、心地よい感触のテクスチャー。その裏側ではコストがかかっても高品質で安心できる製品づくりという企業としてのプライドと、人権や環境といった地球や人類の未来を左右する問題への取り組みが強く感じられるカスタムボトル。30秒のCMのキャッチコピーは『未来を水筒につめて』。

「デザインから入ったけど、実はサステナブルだったというところで、いい買い物ができたと思ってくれてる方が増えればいいなと思ってます。」